NAMSTROPS 彼らが逆さから見る世界(後編 )

今回話を伺ったのは、結成から15年目を迎えた、 “逆さにこだわったコンテンポラリーダンスカンパニー”「んまつーポス」の代表・豊福彬文さん。前編では彼らが追い求める表現の根幹にあるスポーツと、コンテンポラリーダンスの関係について伺いました。後編では彼らが取り組んでいる活動の中から、子どもたちとの関わり、そして2019年に創設された拠点「透明体育館きらきら/国際こども・せいねん劇場みやざき」(キャンディーシアター)などについて、さらに詳しくお話を伺っていきます。

保育園とシアターのハイブリット

2019年3月にオープンした「透明体育館きらきら/国際こども・せいねん劇場みやざき」(キャンディーシアター)。日中は保育園の子どもたちの体育館、夜と週末はコンテンポラリーダンスを上演する劇場という二つの機能をもっています。「昼は保育園、夜と週末は劇場! 透明体育館きらきら/国際こども・せいねん劇場みやざき」という作品として、第13回キッズデザイン賞の「子どもたちの創造性と未来を拓くデザイン部門(カテゴリー:コミュニケーション)」の経済産業大臣賞を受賞しています。なぜ「こども・せいねん」としたのでしょうか。実は、あるルーマニアの青年との出会いがありました。

浴びるように芸術を体感する子どもたち

「横浜ダンスコレクション」という振付家のコンペティションが、毎年、横浜赤レンガ倉庫を会場に開催されています。そのコンクールで豊福さんが奨励賞を受賞した2014年に出会ったのが、海外ディレクターのTibuさん。豊福さんと同い年だということもありすぐに意気投合。その時すでに彼はルーマニアの都市シビウにある子ども青年劇場ゴングシアターの芸術監督でした。

「いろいろ話しているうちにTibuさんが、『んまつーポスがシビウに来てくれたら踊れる場所を作りたい!』と言ってくれて。『行きたい』と返事をしたら、用意してくれた場所が、ヨーロッパ最大と言われているシビウ国際演劇祭でした。2014年のことです。それがきっかけで、次の年(2015)には、文化庁の『新進芸術家海外研修制度』の研修員に採択され、ルーマニアに滞在して芸術教育の実態調査を行いました。受け入れ先はTibuさんの青年劇場ゴングシアターでした。そのゴングシアターには、毎日、子ども達が続々と訪れては、身体を動かしながら作品を鑑賞し、見終わると、エントランスにあるクッキーやキャンディーを食べながら作品のことを楽しそうに話している。それが“当たり前”なところに感動しました。」

子どもたちの日常のルーティーンの中に、溢れるように芸術があることに感動したのだと言う豊福さん。シビウはルーマニアのほぼ中央に位置する、人口約17万人の小都市。宮崎の爽やかさと、どこか印象が重なるところがあったのだそう。

「宮崎は空が広いでしょう。人もそんなに多くない。そこに劇場がある風景は素敵だろうなって。シビウもルーマニアの首都ブカレストとはまた違った活気がある、過ごしやすい市街地です。シビウで見た、子どもたちの身近に劇場のある風景を、宮崎でもつくることができたらいいなと思ったんですよね。」

身近にアーティストがいる環境を

豊福さんは「劇場が透明だと、子どもたちは、中でアーティストが作品を創っている様子を見ることができます。動物園のように。」と笑います。豊福さんのおっしゃる通り、ガラス張りのキャンディーシアターは、田んぼを挟んで向かいに建つ保育園の子どもたちが、アーティストの日常を観察するにはもってこいの造りになっています。

「幼少期から芸術やアートに触れる、ダンスに触れるっていうことは、大人になってからもいい影響を及ぼすだろうなと僕らは考えています。正解のない分野で、自分たちなりの正解を創り上げるという経験を子どもの頃にしておくと、それからの人生が少し、変わるのではないかなって。」

遠隔で挑戦する「空想運動会」

7月に開催の「空想運動会」、元々は香港からゲスト「不加鎖舞踏館 UNLOCK DANCING PLAZA」を招いての公演の予定でしたが、コロナ禍の影響で香港チームは映像での参加となりました。

「もちろん来てもらえたらよかったのですが…今回は動画で出演してもらうことにしました。離れていても上演できるということを、実証できたらいいですね。香港の映像と僕らの身体表現をどう合体させよう? とアイディアを出し合っています。

「僕らの出自は学校の『創作ダンス』なので、今はそれがどれだけ世界に通用するか?という大きな実験をしている最中。日本では『創作ダンス』って、なんかちょっとダサいみたいなイメージあるじゃないですか? 僕らもそうだったけど、みんなやらない。そこがいいなと思って。盛んに取り組まれていることだったらやる必要ないですから。実は、海外のアーティストには、『日本の子どもたちってみんな自分たちで創るダンス(コンテンポラリーダンス)をやってるんだね、すごいね』と言われる。だから、創作ダンスが出自の僕らは、海外から注目・招聘されることが多い。この状況を日本に逆輸入したら、日本人は気づいてくれると思う。全ての子どもが創作ダンスを学んでいるってすごいことだと。そこをもっと伝えていきたいですね。」

最後に今後パフォーマンスをどんな方に観にきてもらいたいですか?と伺うと、「とにかくいろんな人にダンスをスポーツのように観戦してもらいたい」とのこと。

「まったく観たことがない人たちにも、もちろん観てほしいですが、僕らのことをずっと追いかけてくれている人たちにも観てほしいです。よくメンバーと話しているのは、『子どもが楽しめる大人の作品を創ろう』ということ。観終わって気持ちが暗くなるのではなくて、逆にスキップして帰っていくような作品にしたいんです。心も体も軽くなるような、そんな舞台が目標です。」

練習の様子を少し見せていただいただけでも、豊福さんのおっしゃる「スキップして帰りたくなるような」気持ちがよく分かるような気がしました。もしかしたら舞台にあがる彼らが1番楽しんでいるからこそ、観客の心を躍らせることができるのかもしれません。国文祭・芸文祭での”んまつーポス(日本)×Unlock Dancing Plaza(香港)「空想運動会」コンテンポラリーダンス公演”は終わりましたが、今後も彼らの舞台は、拠点である宮崎をはじめ各所、各媒体で観ることができます。これ機会に奥の深いコンテンポラリーダンスの世界を、みなさんもぜひ、覗いてみてはいかがでしょうか?

※キャンディシアターの表記は正しくは「CandYシアター」が正当