“静”と“動”があるから能楽は面白い

神様が能楽の舞台で舞う

「能楽の世界」の公演を迎えたこの日。観客の中には、和装でドレスアップしている方も見受けられました。メディキット県民文化センター・演劇ホールの客席は、密を避け1席ずつ間隔を開けた状態で開演を迎えます。

1つ目の演目は、舞囃子「養老」。舞囃子とは、曲の中の舞所だけを上演するもののことをさします。「養老」のあらすじは、主人公の勅使が養老の滝を発見した親子に出会い、その滝壷に案内される。感激した勅使が帰ろうとすると、あたりに花が降り、音楽が響く中、山の神が現れて神舞を披露する、というもの。以前私たちがインタビューさせていただいた、久保誠一郎さんがシテ方として舞うにあたり「神様らしく舞うことができれば」とおっしゃっていましたが、お話のとおりとても華やかで美しい演目でした。

天女と漁師の駆け引き

次に上演されたのは、天女と漁師、そして白龍が登場する「羽衣」。人間と天女、月と現世という、とても幻想的な世界観を表現するこの演目は、数多くの舞踏曲の原点ともなっている作品です。二十六世観世宗家、観世清和さんがシテ方を演じられ、天女の涙や漁師との掛け合い、そして幽幻で美しい舞、まさしくこの世のものとは思えないようなステージで、室町時代からこのような作品が受け継がれてきたことに、改めて感銘を受けました。

狂言のコミカルな一面

休憩を挟み、和泉流の舞台でしか見ることができないという狂言「隠狸」。実は狸を釣るのが得意だということを主人にバレたくない太郎冠者と、それに勘づいてどうにか狸を手に入れようとする主人の、酒宴での場面が見所です。舞囃子や能の厳かな雰囲気とはうってかわって、野村万蔵さん、野村万禄さんお二人の息のあったコミカルな掛け合いに、観客席からは笑いがもれるシーンも。腰に括られた小さな狸の小道具が、とても愛らしかったです。

人間国宝が魅せる親子獅子

ラストを飾る演目は、半能「石橋(しゃっきょう)」。人間国宝に認定されている、シテ方観世流能楽師の大槻文藏さんと、ご子息である大槻祐一さんが親獅子と子獅子に粉し見事な舞を披露されました。能楽と聞くと「静」のイメージがある方も多くいらっしゃるかもしれませんが、「石橋(しゃっきょう)」はとにかく大迫力。この日は事前にあらすじの紹介が載ったパンフレットなども配られていたので、初心者の私たちにもとても分かりやすく、その魅力が存分に味わえる公演となっていました。

久保さん曰く「このような豪華なメンバーでの公演はなかなか実現できない」との通り、もともと能楽が好きだという人にも、そうでなかった人にも、一流の演技によるとても素晴らしい機会になったのではないかと思います。今日をきっかけに、一段と日本の伝統文化について、理解を深めていきたいと感じる一日でした。